木々康子著「春画と印象派〜”春画を売った国賊”林忠正をめぐって」

木々康子著「春画と印象派〜”春画を売った国賊”林忠正をめぐって」を読みました。林忠正は筆者の義祖父に当たるそうで、明治時代にパリで日本画を広めた画商です。

印象派の画家達が日本の浮世絵に多大な影響を受け、ヨーロッパの美術界が激変したことを知る人は多いですが、その陰に林忠正(はやしただまさ)という美術商(当時は美術商という言葉は無く、「骨董屋」です)がいたことはあまり知られていません。なぜなら、国の恥ずべき絵画=春画をヨーロッパに持ち出し売った、「国賊」とされていたからです。

「春画と印象派」2015年 筑摩書房

今回読んだ「春画と印象派」では林忠正が「北斎漫画」や「富嶽三十六景」などの有名な浮世絵とともに春画も大量にヨーロッパに輸出し、それが印象派の画家たちに多大な影響を与えた事が書かれています。印象派の画家達は、北斎や歌麿らが描いた春画を見ています。そして春画などの浮世絵を求めるときは林忠正を訪ねました。

当時西洋画で裸の女性を描くときは必ず女神や聖女など、神格化された人でないと描けませんでした。普通の女性の裸体を描くのはいけないことだったのです。ですが、普通の男女や普通の夫婦を描いた春画の影響を受け、マネが「草上の昼食」で普通の女性が裸体でいるシーンを描きました。洋服を着ている男性の横で全裸の女性がいるのは不思議な構図でよく分からないな、と常々思っていましたが、これは西洋の戒律を破る革新的な絵画だったのですね。まあ、全裸の女性にきちっとしたスーツの男性を描くより、春画の方がよほど自然だとは思いますが、、、。

春画の本も沢山出版されています。現在は無修正で出版可能になりました。版画ではなく肉筆の春画もあります。肉筆はさらに美しいです。

また、ヨーロッパはキリスト教の国で戒律が厳しく、特に女性は男性にとって性欲を掻き立てる「」とされていたため、抑圧されていたのに対し、日本の女性の方が自由であり、性=悪ではなかった。そのため春画が描かれ生の喜びが描かれました。(きっとキリスト教圏では悪魔との交わりになってしまったのでしょう、、、。)また、現代は日本と比べてヨーロッパの女性の方が社会的地位が高い人の割合が多いのは、歴史的に抑圧されていた反動からフェミニズム運動が起こり、女性自らの手で地位を獲得した結果です。対して日本の女性は昔から精神的に抑圧されていなかったため、大きなフェミニズム運動が起きにくい、という背景があるということをこの本で学ばせていただきました。

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日本人が浮世絵の価値を理解でなかったために世界に散逸してしまいましたが、林忠正のおかげで世界で日本画と浮世絵が保護されていたのだと思うと林忠正と諸国のジャポニズムコレクターに感謝しか有りません。また、林忠正は数々の日本画とともに膨大な印象派のコレクションもあり、日本で美術館を開きたかったようですが、残念ながらそれが実現することはありませんでした。当時の明治政府の理解が全く得られなかったからです。残念ではありますが、理解を得られない日本に持って帰って来なくて正解だったのかもしれません。

パリ万博でも貢献し、日本美術の素晴らしさを世界に広めたにも関わらず、「国賊」として長らく歴史の闇に葬られていた林忠正の功績はもっと知られるべきだと思います。さらに現在でも春画を展示するのは大変なようで、先日の吉原展でも展示されず、未だ春画の価値が認められないのでしょうか?

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印象派の作家達の時代背景と春画から受けた影響など書かれていて勉強になりました。林忠正は日本の芸術を世界に広め、日本人で初めて世界を相手にビジネスを行った一人であることは間違い有りません。

この本で改めて林忠正の功績を学ぶことができましたが、私が林忠正を知るきっかけになったのは原田マハ著「たゆたえども沈まず」。この小説はゴッホを主役とした話ですが、林忠正との交流が描かれています。こちらは小説ですので、どこまで史実かは不明ですが、あの時代に芸術の中心地パリで活躍した日本人がいるんだ、と衝撃でした。ゴッホの苦悩の人生も書かれているのでおすすめの一冊です。

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大吉原展〜東京藝術大学美術館

東京藝術大学美術館で開催中の大吉原展に行ってきました。

吉原を題材にした絵画を中心に展示されています。浮世絵、肉筆画と充実した展示でした。また、精密に制作された模型も見応えがありました。
特に美しかったのは肉筆画です。吉原というと浮世絵のイメージがあったので、大きなサイズで美しく彩色された作品に魅入られました。看板になっている絵も喜多川歌麿の肉筆画「吉原の花」という作品で、これを見れただけでも行った価値があると思いました。歌麿の作品の素晴らしさを再認識しました。

またこれだけ纏まって吉原の絵画が見られたのも資料的にも面白く、吉原の世界を堪能できました。もちろん図録も購入し、今後の活動に活かしたいと思っています。これだけ纏まった書籍ってなかなかないですよね。展覧会の図録はほんと助かります。


良い展覧会でしたが、春画が展示されていなかったのが意外でした。春画展では無いものの、吉原と春画は切り離せないと思うので春画も展示して欲しかった。といっても展示自体が難しいのかもしれませんね。18禁にするなどの配慮が必要になるのかもしれません。芸大美術館という施設ですし、やはりまだまだ春画の展示は難しいのかな。

東京藝術大学美術館公式HP

浮世絵に描かれた「剣菱」

最近次男と晩酌をしておりまして、、、日本酒が飲みたいというので「剣菱」買ってきました。

お酒は好きですが、今まで日本酒は苦手で、あまり飲んで来なかったのでどの銘柄が美味しいか、とか分からなかったのですが、流石に「剣菱」は有名なので聞いたことがあるし、一度飲んでみよう、と購入しました。

500年もの歴史を持つ「剣菱」。浮世絵にも描かれていて、江戸の人にも愛飲されていたようですね。そのお味は、美味し〜!やっぱり美味しくなきゃ、500年も続かないよな〜、間違いない。意外に飲みやすくて日本酒って美味しいんだ〜と実感。甘すぎず、辛すぎず、ちょどう良い感じ?(語彙力が、、、ソムリエにはなれないな、、、。)日本酒って甘いのから辛いのまで味に幅がありますが、剣菱はバランスがよかったです。(単なる好みかもしれませんが)

江戸の人たちも美味しいもの飲んで、江戸前の新鮮で美味しい魚を食べて、、、羨ましい〜!

現在は兵庫県神戸市に剣菱酒造の蔵元がありますが、江戸時代には、伊丹で作られていたそうです。そこから江戸まで運ばれたんですね。当時の流通が発達していた証でもあります。歌川広重や渓斎英泉の浮世絵に剣菱の酒樽を担いで日本橋を渡る様子が日本橋の風景として描かれています。その酒樽は小売りの酒屋に運ばれ、徳利や角樽などに移して売っていました。江戸ではそう言った酒屋を「枡酒屋」と呼んでいました。当時の酒屋を描いた読本にも剣菱のマークの入った樽が描かれています。

喜多川歌麿「名取酒六家選 兵庫屋華妻 坂上の剣菱」(メトロポリタン美術館蔵)
お酒の広告に美人は昔からの定番です。

歌麿の浮世絵には名酒として描かれているので、やはり当時から愛されていたんですね。