飛鳥山

東京北区王子にある飛鳥山は三代将軍吉宗が桜を植えたのをきっかけに桜の名所になりました。ここに植えられたソメイヨシノは、飛鳥山からも程近い、染井で誕生しました。桜の季節には大勢の人々で賑わい、お酒に弁当に団子に、歌ったり踊ったり、仲間で、家族で楽しい時を過ごしました。

歌川広重筆 東都名所・飛鳥山花見 19世紀 横大判 錦絵
出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)国立文化財機構所蔵品統合検索システム

そんな様子がわかる歌川広重の浮世絵です。踊っている人が見えますね。宴もたけなわになると上半身脱ぐのが江戸の人なのでしょうか??楽しそうですね。宴会の様子を覗き見てみたいです。

鍬形蕙斎筆 飛鳥山図 江戸時代・19世紀 絹本着色
出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)国立文化財機構所蔵品統合検索システム

また、鍬形蕙斎(北尾政美)の「飛鳥山図」を見ると全く違う飛鳥山です。遠景から眺めると自然豊かで静謐な、まさに「山」だったんですね。今は道路と線路に囲まれて、山の雰囲気はありませんが、急な坂になっているのは山だった地形そのままなのでしょうか。広重の絵にも描かれていますが、松もたくさん植えられていたんですね。おめでたい感じ?

実は私、この近くで子供時代過ごしていまして、この辺りは地元、愛着があります。子供の頃にお弁当を持って花見に行って、両親は花見酒を楽しんでいるので、姉とSLのある広場に行って大きい滑り台で遊んだりしたのを思い出します。

こちらの写真は2019年、数年ぶりにJR駒込駅から、母校に寄って、古河庭園、平塚神社を通って王子の飛鳥山まで散策した時の写真です。平塚亭でおにぎりとかお団子とか買って、飛鳥山でお花見しました。

平塚亭は、ドラマのロケ地になって最近有名ですが、私にとってはフツーに子供の頃からあるお団子屋さんで、ここ近年の人気ぶりにビックリです。混んでいて、並んで購入しました!確かに平塚神社の鳥居の横に小さいお店があってレトロな雰囲気がいいかも。美味しいし。ちなみに平塚神社も私の遊び場でした。小学校の写生大会も平塚神社の本殿描いて賞をもらったな〜、なんて色々思い出します。

花見に話を戻しますが、コロナ前はとても大勢の人で賑わい、座る場所を確保するのも大変でした!いつの時代も楽しみ方は同じなんですね。公園も綺麗に整備されて、「渋沢史料館」(渋沢栄一の資料館)も公園内にできていてびっくりしました。昔は飛鳥山公園の隣に渋沢邸があったと記憶していますが、現在は公園の一部になっているんですね。私は、渋沢邸が王子にあるので、ずっと、渋沢栄一は王子の人だと思っていました、、、。

祖母が生前、話していましたが、昔(多分、戦前)は、今の飛鳥山公園だけではなく、本郷通りまで桜が植っていて美しく、花見の人が大勢行列をなしていてもっと賑やかだったそうです。子供の頃に聞いた話なので、あやふやではありますが、ずっと桜の並木道だったら、さぞかし美しかったんだろうな〜と、想像するとワクワクします。

浮世絵の顔

浮世絵って同じような絵ばっかり、と思っている人って結構多いような気がします。江戸時代は長いので、版画の技術や流行で絵も変化しますし、また、たくさんの作家がいるので、似ているようでも絵のタッチも構図も個々に個性があります。

今回は風景画の中の人物の顔の違いを比較してみたいと思います。浮世絵の風景画が人気になったのは、北斎の富嶽三十六景からです。江戸の人は旅好きでしたが、現代のように交通手段があるわけではありませんから、実際にはそう簡単に旅行に行けないので、風景画を眺めて思いを馳せたんですね。今、私たちが旅行に行けないから、ネットで世界の観光地をリモート旅行するのと同じ気持ちです。

風景画にはガイドや絵はがき的な要素だけでなく庶民の生活も描かれていて、その表情も様々です。美人画や役者絵の様に気合が入っていなくて、決まったポーズも無いですし、素朴な4コマ漫画のイラスト的な絵が多く、興味深いです。また、当時の風俗も分かり、史料にもなりますね。

まずは歌川広重。広重は細かく一人一人丁寧に表情が描かれていて、まるで会話が聞こえてきそう。生真面目な広重の人間愛を感じます。東海道五十三次から3つ紹介します。

「東海道五十三次 関」から
大名行列のお供がホッと一息ついている様子が表情からわかります
 「東海道五十三次 草津」から 
かご屋がもめているのか、先頭の人が間違えちゃったのか、
怒鳴り声が聞こえてきそうです。
一番前の人が困った顔ですね。今にも泣きそう。同情しますよ、、、。
「東海道五十三次 御油」から 
宿場町で宿屋の女中がお客の旅人の争奪戦!
おじさんの悲鳴が聞こえてきます
「東海道五十三次 御油」から 
またやってるよ、って感じでしょうか。
呆れ顔だけど楽しそう。

葛飾北斎は風景画では、あえて顔を描かない作品が多いですね。傘で隠れているとか。やはり全体の構図で勝負です。ですが、北斎に出てくるおじさんは愛らしい。「神奈川沖浪裏」の船にしがみついてる人もちょんまげ頭しか見えないのに可愛い。北斎の顔、といえば北斎漫画ですが、それは今度、いつか。

「冨嶽三十六景・尾州不二見」から
職人さんの楽しげな表情が可愛らしい。
北斎も絵を描いてる時はこんな顔だったのかな
「冨嶽三十六景・甲州三嶌越」から
旅人が大きな木を見つけて子供のようにみんなで手を広げて木の太さを測っています。この北斎おじさん、よく出てきます。
諸国瀧廻り・木曽路ノ奥阿彌陀ヶ瀧から
崖の上で宴会ですか?2人は滝の美しさとマイナスイオンのせいか、表情は穏やかそのもの。

次は渓斎英泉。英泉は若干、人のバランスが悪いなと思ってましたが、よく考えてみたら、日本人体型、、、、。庶民はこんな感じだよね。リアルかも。表情もよく描き込まれてます。歌川広重と渓斎英泉の合作の「木曽海道六十九次」から紹介します。


「岐阻街道 桶川宿 曠原之景」渓斎英泉作
旅人が農家の女将さんに道を聞いているのか二人ともにこやかに話をしていますね。
その奥では旦那さんがキセルを手にひと休みといったところでしょうか。ほのぼの故郷を感じる絵です。
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旦那さんがキセルを手にひと休み
脱穀中でしょうか。優しそうな女将さんです。
いいひとに会えて良かったね。

歌川国芳は武者絵や戯画などが中心ですが、やはりこの時代は風景画が人気なので国芳も描いています。江戸っ子の国芳っぽい、賑わいを感じます。

東都名所・両国の涼 19世紀 横大判錦絵
出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)
国立文化財機構所蔵品統合検索システム
両国の花火を船で見物する客に食べ物を売っているところです。商人は売れて愛想笑い、客は酔ってるからちょっとめんどくさそう。

喜多川歌麿は少し前の世代なので残念ながら風景画は見つからなかったのですが、美人画の背景に江ノ島の風景と観光客が丁寧に描かれていて、珍しいと思います。江ノ島は江戸から気軽に行けるし、人気の観光地だったんですね。

「江ノ島岩屋の釣遊び」 喜多川歌麿 18世紀 大判錦絵
出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)
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何か見つけたのでしょうか。熱心に海を覗いています。

改めて風景画をじっくりと見てみましたが、色々な発見があって面白いですね。当時の人の間で風景画がヒットしたのが分かる気がします。