虎図

今年も半年が過ぎようとしていますが、今年は寅年ですね。正月前後にしか毎年の干支を意識しないので数ヶ月するとすっかり忘れてしまいます、、、。今年は寅年ですが、グローバル・タイガー・サミットが開催され、絶滅危惧種であるトラの保護について国際的に話し合われるそうです。

日本に虎は生息していませんが、古くから虎の絵は親しまれてきました。今でも、強い虎のイメージそのままに厄除けとして鶴や亀と同様に縁起物の一つです。武士の屋敷では来客者を威嚇するためにも使われたようです。

円山応挙 「虎嘯生風図」天明6年(1786) 絹本着色
東京国立博物館蔵
虎は風を操るといわれているそうで、背景の
カーブは巻き起こした風でしょうか。
ふさふさの毛と柔らかそうな体。モフモフしたいですね。
出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)
熊代 熊斐 「虎図」宝暦12年(1762) 紙本著色
九州国立博物館蔵
南宋画の先駆者、熊斐の作品。
ふさふさの毛とくりくりの目が可愛いです。
出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

虎の実物を見ずに描かれた日本画の虎はちょっと微妙です。写実的絵画が得意な応挙でさえ、微妙です。日本人にとっては空想上の動物と同じだったのかもしれませんが、猫科の動物と知っていたから、ちょっと猫っぽく可愛くなってしまったり、、、。空想上の動物の龍は大体かっこいいですけどね、、、。でも見ることが出来なかったからこそ、絵師による工夫がされていて、色々な虎がいるのが面白い。個性が発揮されています。いろんな顔していて、迫力があるものから、可愛い虎まで、こんなコがいた!って感じで楽しめます。

伊藤若冲 「虎図」 絹本着色 一幅 プライスコレクション 
朝鮮の虎図を模写した作品
朝日新聞出版 「若冲への招待」より
伊藤若冲 「虎図」 紙本墨画 一幅 石峰寺蔵 
可愛い虎。動植物を愛した若冲の優しさあふれる作品。
実物を見たらどんな虎を描いたのでしょう。
朝日新聞出版 「若冲への招待」より

トラは元々アジアに広く分布している野生動物です。インド、東南アジア、中国、朝鮮半島からロシアまで生息域がありますが、ここ100年で激減して、絶滅危惧種になってしまいました。と言われても、日本とは関係ないんじゃない?とは認識不足でした。虎は漢方薬として使用されていたため、近年まで密輸されていたようです。昔、虎の敷物なんてものもありましたよね。

渡辺崋山 「猛虎図」 天保9年(1838)絹本墨画淡彩 
平野美術館蔵
田原藩の三千両もの借財の代わりに三河国前芝の加藤家に送られたと伝えられる「三千両の虎」と呼ばれた作品。
新潮日本美術文庫「渡辺崋山」より

もちろん世界的に現在はトラの狩猟は禁止されていますが、密猟は今でもどこかで行われているそうです。ということは高値で買い取る商人がいるということ。そしてそれを買う客がいるということです。自然環境の変化も激減の一因ではあるようですが、ほとんどが人間の仕業です。ということは人間が救うことも出来るわけですね。地道な保護活動をされている現地の人には頭が下がります。

詳しくはWWFのHPをご覧ください。

渓斎英泉 「月に虎」19世紀 大短冊判 錦絵
虎は夜行性なので月とともに描かれることが多いそうです。
東京国立博物館蔵
出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)
葛飾北斎 月みる虎図 天保15年(1844年)
紙本一幅 島根県立美術館蔵
85歳晩年の作品。可愛い夢見る虎ですね。
新北斎展(2019年)カタログより

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渡辺崋山

最近、美術館に行っていないせいか、歴史書に寄りすぎて美術書をあまり見なかったせいか、禁断症状(?)になり、名画集を眺めていまして、すごい絵は沢山ありますが、その中でも特異な存在、渡辺崋山をご紹介します。渡辺崋山は1840年台前半に活躍した絵師です。

寛政5年(1793年)田原藩(現在の愛知県渥美郡)の藩士の長男として生まれました。父が江戸詰だった為、江戸の半蔵門外にあった田原藩上屋敷内の長屋の中で生まれたそうです。武士の長屋もあったの?とちょっとびっくり。士農工商からすると一番身分は上ですが、経済的には商人の方が豊かだったかもしれません。父が病弱だったこともあり、武士ではありますが、生活は厳しく、そのために画業に励み、絵師としても活躍していました。

師匠は町絵師の白川芝山、その後、金子金稜と谷文晁に支持しています。年齢的には北斎よりも33歳年下です。と言っても北斎の影響がある絵には見えませんね。

鷹見泉石像 国宝 渡辺崋山筆 天保8年(1837) 絹本着色 
国立博物館蔵
国立博物館でこの作品を見てショックを受けました。
出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

渡辺崋山といえば肖像画、というくらい名作が多く、この時代にこんな作品を描いた人がいたのかと衝撃を受けます。日本画よりも西洋の水彩画に近いのでは?と思ってしまいます。デッサンも多く残っているようですが、これも江戸の人が描いたとは思えない。リアルで、柔らかく美しいタッチに心洗われます。西洋画に親しんでいる現代人には彼の作品は親しみやすいかもしれませんね、、、。

ヒポクラテス像  重要美術品  1幅  天保11年(1840)  
絹本墨画淡彩
 瞳の輝きとかまるで油絵のようです。
出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

もともと武士の身分で絵師になった人は結構いますが、渡辺崋山は本業はキッチリ武士です。幼少期から藩主の御伽役を任されるのに始まり、田原藩の役職をこなしています。儒学も学び、できる人だったようです。俗に「三千両の虎」と言われた「猛虎図」は藩の借財の代わりに渡されたそうで、1枚の絵で三千両の借金チャラ。すごいな。そんな人だったからでしょうか、身に覚えの無い罪で投獄、謹慎処分になり、最後は自決しました。天保11年(1841年)49歳のことです。ちなみにこの時、北斎は81歳。北斎はこの後もバリバリ肉筆画や北斎漫画なんかを描いていたのを思うと、崋山ももっと名作を残せただろうに残念です。

市河米庵像  重要文化財 1幅
縦:124.2cm 横:59.1cm
京都国立博物館蔵
出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)
市河米庵像の下絵です。
江戸の絵師と思えない、、、。
出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)